254201

ひとりきりで映画を観る。

 


昏い影や、かなしみに美しさを見ないあなたは、あまりある余白を見つめられない。

 

 

 

ひとりで、映画を観る。

 


スクリーンと、ビロードの椅子。映像のない映画を見つめて笑む。記号を追う目を追っている。八畳の部屋。私だけ。

 


窓の外を走り去る車の音だけが友だった。時おりカーテンから差し込む、ライトの温度がなつかしくって、泣きそうになる。

 


隣の部屋に  いる

あなたの

しずかな呼吸は

聞こえない。

 


画面の彼女は、乾いた涙に頬をぬらす。

 

 

 

 

 

 

あなたはさびしくない春を知っているというけど、春ってさびしいんです、わたし。うす茶色の瞳越しなら、やさしいのですか。あんなに生きてるのに、風はあたたかいのに、過ぎさった季節に死んだものたちのにおいがリフレインして、わたし、喉がふさがる思いなんです。何十回でも、さびしいんです。

 

 

 

 

だから

 

今夜はひとり。